教科書に載ったセクシュアリティの表現の話 ー「からだの性」「こころの性」「好きになる性」は「正しい」??ー

  今年、2019年の春から、中学校の道徳の教科書に「性的マイノリティ」、いわゆる「セクシュアルマイノリティ」「LGBT」の話題が記載されるようになったとのこと。

 


義務教育の中できちんとした形で掲載されるようになったこと自体は、セクシュアルマイノリティの可視化という観点からすごく重要で大きなことであるのは間違いなかろう。


しかし、当事者として気になるのは、その記載内容である。

 
学校図書の教科書にはこのような図と定義が掲載されている。

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朝日新聞デジタル 2018/3/27 22:54より

 
また、日本教科書の教科書では、「心と体の性が一致しない『性同一性障害』を取り上げる」とのことだ。(OUT JAPANの記事より

 
これは実は、社会的に存在するセクシュアルマイノリティでは大問題なのである。

 
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学校図書の教科書の説明への批判

  • 「T」の定義が「トランスジェンダー」ではなく「性同一性障害」の定義になっている
  • そもそも「こころの性」の定義がはっきりとなされていない(「こころ」に性別があるかどうかの議論も含めて)
  • 現実のLGBの人間のジェンダー表現が反映できない

 


日本教科書の教科書の内容への批判

「心と体の性が一致しない『性同一性障害』」

→「性同一性障害」は2018年版ICD-11(WHO(世界保健機関)の疾病リスト最新版)では「性同一性障害」は精神疾患から外れ、「性別不合(Gender Incongruence)」という名称になり、現状に合ってない。

 


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結論から言えば、

「わかりやすさ」重視のために、排除されてしまっているセクシュアルマイノリティ当事者がいる事を知ってほしい。「正しくない」説明を教科書に載せないでほしい。

ということだ。

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セクシュアリティ3要素病理モデルへの批判点

LGBT」の初心者向け書籍やwebメディアでよく見かける、

「からだの性」「こころの性」「好きになる性」

で表現される、セクシュアリティ3要素モデルの具体的な批判点は以下の通りである。

 

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セクシュアリティ3要素病理モデルの概略

 

  • 「社会的」に生きているトランスジェンダーが表現できない

    →自己内の心身モデルと、自己・社会モデルの違い

  • 「好きになる性」でトランスジェンダー好きを選択しづらい(後述)
  • 「こころの性」でノンバイナリやクィア当事者が選択しづらい
  • 男女が1軸になっている

    →心理学においてBem(1981)は外的認知対象の自己内性別化を「男性的ー非男性的」「女性的ー非女性的」の2軸で説明している。

  • 「からだの性」つまり生物学的性別がトップに来ることにより、生物学的性別が要素として前提で重要なものとして取り扱われてしまう恐れがある

    ジョグジャカルタ宣言においては、生物学的性別よりも社会的ジェンダーによる性の自己決定権が重要視されている。

  • セクシュアリティが「先天的」なものとして取り扱われてしまう

    →先天的・後天的かは議論中であり、後天的にセクシュアリティが変化した例も大いにある。

 

 

他のセクシュアリティの表現例も見てみよう。

東京レインボープライド(TRP)のサイトに記載されているのは以下の図である。

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この図の一番の問題点は「男女二元論」である。

生物学的男女二元論ピラミッドモデルとでも呼んでおこう。

 

この図では、男女二元論以外のジェンダー性的指向が説明できないのである。

事実、当該サイトでは、Xジェンダーアセクシュアルノンセクシュアル・パンセクシュアルが文章の説明での記載で終わっているのだ。「『LGBT』以外にも」という文言で。(「LGBT」はセクシュアルマイノリティの「総称」じゃないんかいね?)

 

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そこで、こんなセクシュアリティ表現法を紹介しましょう。「アイデンティティスペクトラム」である。まだこれの方が少し多様な表現ができる。

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アイデンティティスペクトラム

note.mu

詳しい説明は上記サイトを参照。

この図だと、社会的なジェンダーと、アセクシュアルノンセクシュアルを表現できる点が画期的と言えよう。


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○性の要素

ところで、性を規定する要素は様々。一例を挙げると(牧村朝子「百合のリアル」を参考に)

 

【性別系】

  • 出生時に割り当てられた性別
  • 生物学的性別
  • 戸籍上の性別
  • 性自認(自分の性別に対する自己認識)
  • 性役割ジェンダーロール。生活上の性別)
  • ジェンダー表現(服装・言葉遣い・行動など)

 
性的指向系】

  • 恋愛対象(精神的に密接に繋がりたい対象)
  • 性的対象(肉体的に密接に繋がりたい対象)
  • 関係性(モノアモリー・ポリアモリー

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たくさんある「性の要素」

 

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○「好きになる性」の曖昧さ

3要素モデルで見かける「好きになる性」は概念が曖昧だ。

恋愛対象と性的対象のどちらを示しているのか不明だ。

さらには、指向する「相手」にも当然「こころの性」「からだの性」「好きになる性」があるのだが、このモデルでは表現しきれないのだ。

 

原則的には「トランス女性(MtFと表記する場合も)」「トランス男性(FtMと表記する場合も)」と言うように、「性別」は「性自認」や「社会的ジェンダー」によるものとされるのが現在の枠組みであるが、現実には、性行為をしたい性別と恋愛をしたい性別が違う人も存在し、一概に「好きになる性別」が「性自認」や「社会的ジェンダー」であるとは言い切れないのだ。


逆に言えば、それだけセクシュアリティは「多様」なのに、現在の表現方法では全然「多様に表現できない」のである。

 

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○新しいモデルの提唱

そこで、できるだけ多様な表現ができるような、新しいセクシュアリティ表現モデルを提唱することにする。

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名称は決めていない

 

【ポイント】

 

すごく項目が多いですね...

しかし、ある程度項目を増やさないと、「多様なあり方」は表現できない。

逆に言えば、自己と他者と社会的生き方では、これほど多くの性の要素を考慮して生きたり性的指向を認識したりしているのだ。

 

このセクシュアリティ表現モデルはもちろん、全項目が任意項目です。当てはまる項目があれば書けば良き。

 

もちろん、この図は筆者・もじゃが勝手に作成したものであり、誰の監修も受けていない。

誹謗中傷はお断りだが、前向きな意見や提案は受け付けている。

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